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看護侍

看護侍

声優さんインタビュー その2

岸川
「DS9(ディープスペース・ナイン)」と「ヴォイジャー」のお話を伺いたいと思います。
先ほど、冒頭で奥さんがサラトガで亡くなって(DS9第1話「聖なる神殿の謎 パート1」)、今までの「スタートレック」とちょっと違うんじゃないかというお話がありました。玄田さん自身は、それまで「スタートレック」のイメージは漠然とあったのでしょうか。

玄田
もちろん、地上ではなくて銀河を遊泳する壮大な感じの世界じゃないですか。その中でドラマとしてはいろいろあるんですが、最初からそういった状況から入る。もう少し段階があって紹介などいろいろあって入ればいいんだけれど、最初からとにかく壮絶な、自分の肉親の死から始まっていますから。パンドラの箱を開けて、将来、自分が創設者になるという預言者みたいなことから入っていきました。
ところが自分では全然自信がないし、子どもは小さいし、周りは言うことを聞かずにぶつかり合う。そういうシチュエーションの中で、本当に司令官としてやっていけるのかと感じました。その不安が同じようにアテレコをしていて僕にもありました。将来、これはどうなっていくんだろうということがありました。

岸川
確かに矢島さんのカークや麦人さんのピカードだと、部下はみんないい子ばかりなので、抗議はあるけれど安心しています。でも、シスコの場合は割と四面楚歌みたいな状況で、外でもピリピリ、家庭でも息子が大きくなるにつれいろいろあってピリピリ。常に緊張しているキャラクターだったと思います。そのあたり、演じていて精神的に張ってしまう部分はありましたか。

玄田
だから、張りたくて張れないっていうんでしょうか。そういう葛藤がありながら、周りも魅力があるんです。クワークやガラックなど3時間くらいメイクをして、いろいろ大変なことをしてしゃべるわけでしょう。そうすると、このメイクもひとつの売り物で、大変なことをよくやっているなと思いました。
その中でやりとりしている間に、作品の中で遊びができる時期がありました。皆さんが被り物を取って素顔を出す話があるんです。
(DS9第137話「夢、遥かなる地にて」)
ほかの作品はどうかわかりませんが、これがまた笑っちゃいまして。どういう顔をしているんだろうって、やっぱり興味があるじゃないですか。ところが、加藤精三さんがやっていたオドーという人が、あまり違和感がないんです。(一同笑)

岸川
レネ・オーバジョノアーという俳優さんが。

玄田
ええ。大川透くんがやっていたキャラクター(ガラック)と、幹本雄之さんがやっていたキャラクター(デュカット)。みんな、なかなかいい男なんです。こういう人がやってたんだと。クワークも素顔を出して。やっぱり、そういった仮面をかけたほうが納得がいくというか、魅力がある。個性が強いほうがいいなという印象でした。

岸川
オドーをやった加藤精三さんなど、ベテランの方が割と重要な役で絡んできます。しかし、役の上ではカークがスポックに対するように、玄田さんのほうが役職は上です。そうすると、役の上とはいえ、物言いも命令口調になります。そういう面では絡みにくいのでしょうか。あまり気になりませんか。

玄田
僕は全然加藤さんと接触がなければそういうことはあったかもしれません。
しかし、「ロボット生命体コンボイ」というアニメがあったんです。

岸川 「トランスフォーマー」(「戦え!超ロボット生命体トランスフォーマー」)
ですね。

玄田
ええ。僕がいいほうで、加藤さんが悪いほうで、そのシリーズをずっとやっていたものですから、息がわかるというと生意気ですが、そんなに緊張しなくても向こうが受けてくれました。だから、安心して芝居を続けられました。

岸川
お芝居という面でいくと、「宇宙大作戦」「新スタートレック」は割と読み切り話が多いですよね。今週はこういうお話です、と。しかし「DS9」は後半になるにしたがって、どんどん話が続いていきます。そういうとき、例えば1週おきに録音するような場合、静のリズムとして同じような緊張感を保つのは、役者さんとしては難しいのでしょうか。それとも、その都度その都度テンションを上げて、前回のことを思い出しながら合わせていこうと思うんですか。

玄田
やはり1話完結だと凝縮されるじゃないですか。前・中・後編になってしまうと、もっともっと込み入って、話自体がおもしろくなるんです。だから、それがかえって僕は楽しみだったですね。特に「スタートレック」はセリフが多いので、それぞれの役者さんがよく覚えるなと思うくらい、よくやっていらっしゃいます。読みづらいものや専門用語がたくさん出てくるので、トチりだすとみんながトチるんです。本当に連鎖反応で。

岸川
ツボにはまったように、みんな同じところでトチっちゃうときがありますね。

玄田
そう。なんですかね、あれは。

岸川
横で見ていて、ふだんなら絶対皆さんスラスラ言っているセリフなのに、1回トチっちゃうと、リテイクを3回、4回と重ねてしまうときがありますよね。

玄田
ダックスをやっていた佐藤しのぶさん。当初、まだあまりみんなと仲よくないというか、話をしていなかったので、相当緊張していらしたようで、ちっともトチらないんです。

岸川
ちょうど矢島さんがカークをやっていらした感じですか。

玄田
小宮和枝とか、僕なんかみんな知っているんで、「彼女、なんでトチらないんだろうな」って不思議でしょうがなかったんです。それで、佐藤さんもだんだん仲よくなってきたんです。そうすると、まあ、トチるは、トチるは。(一同笑)

玄田
安心したんじゃないですかね。だから、不思議な現象っていうのはありましたね。

岸川
セリフ回しが長いとかカタカナが難しいというと、松岡さんは「ヴォイジャー」で、ドクターは大変でしたよね。

松岡
ドクターは大変だったでしょうね。私、ドクターだけは絶対やりたくないです(笑)。もう、すごい難しいことを、しかもダラダラダラダラ長セリフで。

岸川
去年、ドクター役のロバート・ピカードさんが来日されたんです。DVDの発売記念イベントで来日されたんです。そのときにお話しする機会があったので「セリフは覚えているんですか」と聞いたら、ほとんどの場合は家で覚えてくるんですって。

松岡
すごい……。

岸川
ただ、ものによって当日の朝、台本がきちゃうときはしょうがないけれど、なるべく覚えるように、全部覚えていましたという話をされていて、感心しました。

松岡
結構早口で、すごくたっぷりセリフがありましたね。

岸川
日本語吹き替え版でドクターがしゃべっているところを見ていただいたら、「日本版のほうが早口だな」っておっしゃっていましたけれど。

松岡
中博史さんがやっていましたけれど、中さんの台本を見たらすごいでよ。

岸川
ものすごい書き込みのある。

松岡
いろんな色で色分けして。

岸川
受験生の参考書みたいなやつですね。

松岡
そうです(笑)。

岸川
いろんなマーカーで書いてあって。

松岡
みんな尊敬していました。「中さん、すごいわ。こんなセリフ、よく言えるわね」なんて。

岸川
玄田さんが黒人の初めての司令官の役だったら、松岡さんはレギュラーとしては最初の女性の艦長でした。

松岡
そうですね。

岸川
それまでも「スタートレック」で女性艦長といえば、「新スタートレック」に出てきたレイチェル・ギャレットなどがゲストとしていました。(TNG第62話「亡霊戦艦エンタープライズ"C"」)ただ、シリーズとして主役の艦長というのは初めてでした。最初に松岡さんが、「スタートレック」でこういう役です、主役みたいなものですという話を伺ったときのことは覚えていますか。外画で主役ということは、ほとんどなかったのではないかと思いますが。

松岡
いわゆる大人の女性の役は、本当になかったですね。たまにはやっていましたけれど、アニメの主役の男の子が圧倒的に多くて。

岸川
それか、だれかのお母さん役ですね。

松岡
そうですね、お母さん役とか。ちょうどお話をいただいたときも「(ゲゲゲの)鬼太郎」をやってたんです。そのときに、本当に失礼なんですけれど、SFってすっごく苦手で全然見たことがなくて。「『スタートレック』の艦長の役がきたんだよ」って言われても、「何、それ?」っていう感じで。

岸川
「スタートレック」自体はご存じだったんですか。

松岡
名前だけは何となく聞いたことはあるんですけれど、全然見たこともないし。とにかくSFは苦手だったんですよ。複雑でわからないっていうのが自分の中にあって。「何、それ」って。最初に台本をいただいたときに、膨大なあのセリフと……。

岸川
パイロット版ですから、1時間半ありますからね。

松岡
ありました。役も結局、私と全然共通する部分がないくらい、艦長でみんなを引っ張っていく決断力がある女性で。どちらかというと私は甘えん坊で依頼心が強くて、ふだん、全然リーダーっていう感じじゃないんですよ。だから、大丈夫かしらと思ったんですけれど、これが役者の楽しいところなんです。自分とは全然違う役を演じることができるというのが、役者としては一番楽しいところです。だから、自分には全然ないジェインウェイだけど、やってみようと思いました。
でも、最初、台本いただいたときは、本当にみんなのことなんて覚えていないくらい、自分のセリフで精いっぱいっていう感じでした。最初のパイロット版のときは。

岸川
パイロット版は確か、三分坂スタジオで録ったと思います。

松岡
そうです、そうです。

岸川
そのとき、僕も行って見てたんです。皆さん、すごく黙々とやっているなという印象がありました。休憩時間もあまり談笑していなくて、みんなで読んでるというような。

松岡
もう、おしゃべりする余裕なんてなかったです。大体、「ジェインウェイ」って、最初は紹介だから自分の名前を言いますよね。何度も「ジョン・ウェイン」って言っちゃうんです(笑)。(一同笑)

松岡
カタカナを見ると「ジョン・ウェイン」って見えてしまって。「ジョン・ウェイン」じゃないんだよな、なんて。

玄田
いたよね、そういうの。

松岡
自分の名前すらまともに言えないみたいな状態で。「もうどうしよう、この先」と思ってたんですけど。

岸川
カタカナが多いですからね。

松岡
カタカナは多いし、ジェインウェイは艦長ですから、毎回お当番ですし。もう本当にしばらく、結構慣れるまで時間がかかりました。

岸川
端で見ていて、みんな、セリフがすごく大変で。楽そうなのはチャコティをやっているロバート・ベルトランくらいでした。

松岡
チャコティ(笑)。チャコティは妙に少なかったですからね。

岸川
そうですね。セリフの覚えが悪いということがありますけれど。

松岡
あちらの役者さんが、ですか。

岸川
ええ。コーヒーカップで飲んでいるときに、コーヒーカップの底にカンペが貼ってあって、それを読みながら飲むという……。「ER」でジョージ・クルーニーのロス先生が首をかしげながらしゃべったりするのも、カンペが貼ってあるのを読むときのしぐさの一つらしいです。それみたいなものですね。

松岡
それで……。石塚運昇さんがやっていらっしゃったんですけれど、みんなにもばかにされていましたよ(笑)。弱いんですよね。闘うシーンでも、すぐポカーンとやられちゃったりするシーンがあって。

岸川
がたいはすごくいいんですよね。それでも、第1・2シーズンで割と活躍はしています。しかし、第3シーズン終わりくらいからセブンが出てきてドクターが活躍するようになると、影がどんどん薄くなってきて。

松岡
どんどん薄くなってきましたよね。

岸川
かわいそうでした。

松岡
ええ。でも、愛すべきキャラクターでした。

岸川
ジェインウェイ役をやられているケイト・マルグルーの演技の感じと、松岡さんの演技は、リズム的にはどうでしたか。例えば、矢島さんに以前お話を伺ったときは、シャトナーの演技は舞台の演技なので、激高したりするテンションの上がり下がりがすごく激しくて、ナチュラルな演技がうまくできない。合わせているけれど、なかなか疲れる、大変だという話を伺ったことがあります。それに比べると、どうでしたか。

松岡
本当に最初のときは余裕がなかったから、何も考えないでやったんですけれど。

岸川
松岡さんはふだんから優しい感じの口調でやっていますけれど、ジェインウェイはよく「Do it!」って。「やれ!」「やんなさい!」という感じですごく強いですよね。

松岡
語尾が結構パキッとしていますよね。あの辺の語尾なんかはかなり意識してやらなきゃなと思いました。どうしても柔らかくなってしまうので。かなり録ってからの話ですが、台本でも随分語尾を変えたんです。割と柔らかめの語尾になっているときは、パキッと言うような感じに演出家の方もどんどん変えてくださいました。だから、割と後半くらいは、しっかり言う物言いの口調がだいぶ出てきたんじゃないかと思います。髪型も結構変わったりしましたよね。

岸川
いわゆるタマネギ型と呼ばれているものから、途中でショートカットにして。

松岡
短くショートカットに切ったりとか。外見でも少し変わりました。

岸川
後半のほうは若々しいですよね。

松岡
そうです、そうです。若々しい感じでした。初めてやったときに、みんなのリーダーだということもあり、まだ私も当然若かったので、年齢を出さなきゃいけないかと思って、自分の中の低いトーンを使ってセリフを言っていたんです。でも、だんだんやっていくうちに演出家の方が「気にしなくていいよ」と言ってくれたんです。私の持っているトーンでしゃべったほうが逆に自然だと。そういうふうに言われてからはだいぶ楽になりました。パッと見ると、年齢がいっているような感じに最初は見えたので、割と年っぽくやっちゃったんです。

岸川
お待たせしました、谷口さん。谷口さんは「エンタープライズ」でスコット・バクラが演じるジョナサン・アーチャー役として参加されました。最初に「スタートレック」シリーズの主役だという話があったときのことは覚えていらっしゃいますか。

谷口
やはり突然のことでして。自然な流れで、リハーサルをしなくちゃいけないので、ビデオをいただきました。そこでアーチャーの顔を見ましたら、バクラさんって、僕、2度ほど別の長尺でやらしていただいていたんです。同じ顔だ。この顔ならやれるんじゃないか、と。バクラさんとは鼻のラインが似てるんです。
我々も顔でキャスティングされることがよくあります。もちろん、声でもあるんですが。バクラさんを2本くらいやったとき、あまり違和感がなかったんです。リハーサルの後、本番になったわけですが、松岡さんが今おっしゃったこととは逆に、テストを1回やったら「船長としてキツすぎる」と言われたんです。

岸川
同じ演出家の方ですよね。

谷口
そうです。引き続きですから。もっと包容力をもってみんなを統率してくれないかと言われたので、その後は注意しながら、優しい中に厳しさも持った船長を心がけてはいます。

岸川
歴代の船長の中では割と素の部分が多いというか、人間臭い感じはします。

谷口
そうですね。バクラさんが非常に自然な芝居をされているので、ある意味ではナチュラルにやりやすいというか、入り込みやすいですね。先ほどキツすぎると言われたのも、1作目がちょうど、異星人が侵入してきて、そのケガ人を送り届けるところから始まります。バルカン人の副長のトゥポルと一緒に送り届けるんですが、もうそこから激高しているんです。そういうことがあったものですから、どうしても非常にキツい表現になったということがありました。

岸川
ストーリーのほうでも、「どうして行っちゃいけないのか!」とバルカン大使に激高しながら言ってたしなめられる部分もありました。

谷口
そうです、そうです。ありました。

岸川
バルカン人があまり感情を出さないキャラクターなので、対比して余計に激高しているように見えてしまうのかもしれませんね。

谷口
そうです、そうです。

岸川
今、ちょうど第3シーズンが始まるわけですが、すでにアフレコは終了したのですか。

谷口
終わりました。

岸川
内容についてはこれからのお楽しみということなんですが、軽く触れると、第1・2は読み切りの、ちょっとのんびりした話が多かったのですが、第3シーズンは、いわゆる「DS9」の最終章にも近い、ひとつの大きなアクション的な流れにはなっています。

谷口
時間のことが出てきて、とんでもないところへ連れて行かれたりするようなことがありました。

岸川
出てくる宇宙人も多彩です。

谷口
多彩になってきて、驚く展開になっていきます。

岸川
谷口さんは「エンタープライズ」に参加される以前に、「宇宙大作戦」「新スタートレック」「ディープスペース・ナイン」「ヴォイジャー」のどれかをご覧になったことはありましたか。

谷口
何度かゲストで参加させているんです。麦人さん、玄田さん、松岡さんのところにそれぞれ数回出させていただいているので、若干はわかります。

岸川
でも、いざ主役で入って毎週やっていると、「こういう話、こういう世界観なんだ」といった感じで見えてくるものはありましたか。

谷口
こんなに船長あるいは艦長が単独でクルーを置いて外へ出かけていくのかなということを、我々声優仲間でいつも話しているんです。「船長、行きすぎ。外へ」って。

岸川
でも、カークのときもそうでしたよね。

矢島
そうでしたね(笑)。

岸川
そして、普通の船は船長が残って部下が行くものだということになって、上陸班という設定で細かくつくられたのが「新スタートレック」でした。だから、ピカードは割と降りていかず、ライカーやデータが行くようになっていました。

麦人
少ないですね。

岸川
玄田さんのシスコも割とそうですね。

玄田
そうですね。たまには出て行きますけどね。

岸川
ジェインウェイも割と艦にいて、行くのはトゥヴォックなんかが多いです。

松岡
そうですね。

岸川
その辺は「エンタープライズ」「宇宙大作戦」があって、船長がそういうことをやっちゃまずいんじゃないのということになって、24世紀で規則が変わったような感じもします。

谷口
そうなのかもしれませんね。

矢島
そうですね。我々は古典的なパターンなんです。

谷口
そうですね。

岸川
だから2人とも「船長」で、こちらは「艦長」という言い方なのではないでしょうか。同じ「captain」で階級も大佐なのですが、その辺で時代が違うという感じを出しているんだと思います。

谷口
そうですね。クルーを信頼していないわけではないのに、なぜか自分で出かけて行くという。

岸川
なぜでしょうね。

谷口
ねえ。それも命がけで。ほとんど命がけなんですよ。(一同笑)

矢島
カークの場合ははっきりしていますよね。危険なものは全部自分が負わなければならないという使命感をしっかりと出しています。

谷口
確かにそれは今度のシリーズでもありました。やはり、私が行かないと問題解決にはならないということで、どうしても自分が出ていくということは言っていました。

岸川
責任感がすごく強いんでしょうね。

谷口
ええ。相当強いですね。以前のシリーズでは、船長あるいは艦長の少年時代や少女時代は出てきたんでしょうか。

岸川
例えばカークですと、少年時代の話ではないのですが、学生時代にフィネガンという先輩のいじめっ子がいて、それの幻影が出てくるという話がありました。(TOS第27話「おかしなおかしな遊園惑星」)ピカードも、士官学校の学生時代にケンカをして人工心臓になったとか。(TNG第42話「愚かなる欲望」第140話「運命の分かれ道」)

麦人
忘れちゃったな……。吉水くんのときじゃないかな。
(金原注:第140話「運命の分かれ道」は麦人氏です。かなりの名作で。忘れている麦人氏にショック)

岸川
いろいろあります。例えば「エンタープライズ」では1話(ENT「夢への旅立ち パート1」)の冒頭で、アーチャーが少年として出てきて、お父さんと一緒にプラモデルをつくっていて、それを海岸で飛ばすシーンがあります。

谷口
そうなんです。

岸川
ああいうのはないですね。

谷口
そうですか。1話で驚いたのは、お父さんに「風を怖れるな」と言われて、エンタープライズが出発するとき、「風に向かって行け」と言うシーンがあります。それは非常に象徴的なシーンでした。非常に人間的な船長です。クルーの数も少ないんですよね。

岸川
そうですね。第3シーズンになって、外部から特定の目的を持ったチームが乗り込んできますが、第2シーズンまでは少ないですよね。

谷口
非常に少ないですよね。100人を切るクルーです。

岸川
船も小さいですから。

谷口
小さいですもんね。

岸川
麦人さんのエンタープライズD型、ギャラクシー級はものすごく大きいのですが、時代によってだんだん大きくなっていっているんです。

谷口
ワープ航法で船が壊れるのではないかという危惧をもちながら航行するのですが、私たちはちょうどワープ航法ができたばかりなので、それ以上出すと船が壊れるということを恐れながら行くのですが、そういう話は先の話にはないですね。

岸川
ないですね。「エンタープライズ」の第1話では、ワープでクリンゴンの星まで行きます。ふつうだったら練習して慣熟訓練をやってから船を慣らし運転して行くのに、時間がないからといきなりムチャするなあという感じで行ってしまいます。

谷口
いきなり本番ですね。

岸川
それは大変だと思いますね。

谷口
内田直哉さんが機関主任のトリップという役をやられています。この機関主任の言葉は、非常に専門用語ばかり出てくるものですから、内田直哉さんが非常に苦労されていました。普通のセリフでも彼は前後を逆に言う癖のある俳優さんなんです。(一同笑)

谷口
この機関主任が本番で専門用語を逆に言ったりしてしまうんです。だから、みんなでこれは非常にウケていて、「機関主任がはっきりしてくれないから船がガタガタになるんじゃないか」ということを言ったりして笑いあっています。

岸川
そういうテイクが残っていたら、DVDに入っているとおもしろいですね。

谷口
NG集なんかに入れるとおもしろいですよね。

玄田
取っておけば、そんなのはいっぱいあるよね。笑えるものが。

松岡
「ヴォイジャー」はワープ10をやったんです。(VOY第31話「限界速度ワープ10」)パリスとジェインウェイがワープ10をして、サンショウウオに……。なんであれはサンショウウオなんですか。

岸川
松岡さんは前にもその話をおっしゃっていましたが、よっぽど印象深いんですね。

松岡
どうも気に入っていますね、あのサンショウウオ。子どもまでいてね。あのときも、ワープのときは「ワープ6(シックス)」とか「ワープ7(セブン)」と、あてるときに英語で言うんです。たしかあのとき、「ワープ9.9」「ワープ9.95」というのがあったんです。ずっと言っていて、「ワープ7(セブン)」「ワープ8(エイト)」と言っていって、「ワープ9.9」だけどういうわけか「きゅうてんきゅう」と日本語なんです(笑)。

岸川
そういうことはよくわりますよね。

松岡
どうしても英語で言うとこぼれちゃう。

岸川
気にはならないんだけど、後で考えるとかなり変だとか。

松岡
変ですよね。たしかあのままオンエアになっていると思うんですけれど。

岸川
だから、例えばポイントナニナニととか「7.0(セブン・ポイント・ゼロ)」みたいな言い方も、矢島さんのころは「宇宙暦4.73(よんてんななさん)」というように「てん」という言い方をしていました。「新スタートレック」も「てん」ですが、「ポイント」という言い方をします。頭の中で算用数字なんかがいろいろ並ぶんだけど、よくわからない。聞いているこちらも、日付と時間を言っているのだろうけれど、宇宙暦はよくわからないと思いながら昔は見ていました。

松岡
難しい言葉がいっぱい出てくるから(笑)。

岸川
「エンタープライズ」は今までの「スタートレック」のシリーズに比べて、シャワーシーンのような、ヤングアダルトサービスシーンが多いような気がします。

谷口
トゥポルのシャワーのシーンとか、背中からなのですが、相当目を楽しませるシーンがいっぱい出てきます。これまでにない映像ですよね。

岸川
ホシが通風口から降りてくると上着が脱げてしまって隠すようなシーンもあります。あれは明らかに作劇的には必要ないんだけれど、何となくサービスで入っている感じはします。

谷口
大作ものについてくるB級映画に、よく「このシーンはいらないだろう」というきわどいシーンがわざとついてくるものがあります。あれはそれと全く似たところがあります。(一同笑)

岸川
「DS9」にはそういうシーンは全然なかったですもんね。

玄田
一つ挙げれば、ウォーフとダックスがちょっと抱き合うシーンで、ダックスのまだらなのがずーっとあるんだけど、これがどこまでつながってるのか、僕らは興味津々で見てたんだけど、それはウォーフだけが知っている。そういった恋愛や、オドーとキラの恋愛とか。なかなか大人の恋でよかったですよね。際どいところはなかったですけれども、じっくりここまで恋愛というものを考えたのは、この作品でした。

岸川
せっかく集まっていただいているので、皆さんにお話しいただきたいと思います。
矢島さんは玄田さんや谷口さんにとっては大先輩であられるわけですが、「矢島カークを見て私はこう思う」といったお話はありませんか。先ほど矢島さんから、玄田さんがカークをやったらいいんじゃないかという話がありましたが。「おれがやるとこうなると思う」というのはありませんか。

玄田
いや、とてもとてもそういうことは畏れおおくて。(一同笑)

玄田
僕は、「ナポレオン・ソロ」の時代、声優の代表が野沢那智さんと矢島さんの時代ですよ。でも僕は矢島さんのファンだったんです。

矢島
え、本当?

玄田
「ナポレオン・ソロ」も見たし、「逃亡者」も見ました。何て言うんですか。温かい、滑らかで、包んでくれるような。あの声は僕にはたまらなくて。本当にそうなんですよ。大ファンだったんですよ、実は。

岸川
矢島さんの声というのは、聞いていて生理的に気持ちがいいんですよね。

玄田
気持ちがいいんですよね。

矢島
何も自慢にならないですけどね(笑)。

岸川
例えば「ナポレオン・ソロ」にしても「宇宙大作戦」にしても、サブの相棒みたいな人、スポックだったりイリヤだったりすると、女性のお客さんはそっちが好きな人が多いようです。

矢島
そうですよ。いつもやりながら、僕は淋しい思いをしているんです。(一同笑)

矢島
大概そうですね。僕は耐える役が多かったですね。「ナポレオン・ソロ」でも野沢那智くんについている、イリヤについている。半分、いや、80%、野沢那智くんについていたファンの方々でしょう。そういった方々が大挙してスタジオで待っているんですけれども、僕は全く無視されていましたから。「僕はもう少し大人にウケればいいんだ」と自分に言い聞かせていました。

玄田
しゃべり口調というのは、自分自身でやられたんですか。

矢島
あれは翻訳家の篠原慎さんという方が出しました。その前に若山弦蔵さんがやっていた「バークにまかせろ!」というシリーズがありました。それでいわゆる“バーク調”という言い方があったんです。

玄田
オネエ言葉ですね。

矢島
いわゆるオネエ言葉ですね。男性が女性言葉を使う。今だったら大変に自然なことですよね。「今日行かないの?」とか「そうじゃない?」とか。そういう言葉というのは、我々も日常的に使っているわけですけれども、あの当時、ドラマの中で女性言葉を男性がしゃべるということは、ごくまれだったんです。それを、バークで篠原さんが形づくり、“バーク調”という都会的な洗練味を生み出しました。これは若山さんの芝居が大いに関係するのですが。
我々はそれの後塵を拝しているわけです。話が脇に逸れますが、「ナポレオン・ソロ」で一番苦労したのは、若山弦蔵さんのバークの亜流にならないことというのが、僕の第一課題でした。皆さんご存じのとおり、若山さんは非常に美しいバスです。だから、僕はもう少し上を使おうと。僕は音程的にはバリトンですけれども、テナーに近い発声場所、共鳴場所を探して、なるべく高いところで語尾を処理しようと仕向けていきました。それには数カ月かかりました。それが最初のナポレオン・ソロとしての苦労だったでしょうか。

岸川
翻訳も同じ、篠原さんですね。

矢島
そうなんです。翻訳者が同じだったんです。

岸川
脚本の段階で「~なのよ」とか「~なんじゃない?」と書いてあるわけですか。

矢島
そうなんですよ。

岸川
当時、かなりアドリブが多いという噂もありました。

矢島
そうなんです。でも、実際にはほとんどと言っていいほど、アドリブは皆無に近いです。台本のとおり、我々は演じていました。息づかいとか、ちょっとした間投詞とか、そういうものにある種のアドリブをつけ加えることはありましたけれども、セリフそのものをそのときの調子で自由にアドリブすることはなかったですね。あくまでもつくったものです。

岸川
そういえば麦人さんは、「新スタートレック」でピカードをやる前は、ゲストの悪役の人という印象が僕には強かったのですが。だから最初に聞いていて、吉水さんから変わるとなったとき、何かどうもたくらんでいるようなキャラクターだなと思いました。2~3回見ていると気にならなくなるんですけれど。
役者さんのお話でよく聞くのは、やっていて悪役のほうがおもしろいということです。単純なヒーローみたいなものはつまらないという話を聞くのですが、麦人さんはその辺はどうですか。

麦人
悪役は大好きなんです。もともとこの声の業界に入ったときは、割と若かったせいもあるし、二枚目も結構やってたんです。だけど、今後長い人生、これで飯を食っていくことになるとキャラクターをもっと増やしていかなきゃいけないと思ったんです。悪役っていうのは必ず大体出てくるから、悪役の声を少し研究して使ってもらうようにしようと思ったんです。生活の知恵じゃないけれど、そのころ悪役で活躍していらっしゃる方々を自分で模倣しました。声をわざと潰してセリフを言う訓練をしました。
そうしているうちに、ある日、機会があってその声を使ったら、結構よかったんでしょうか。そのディレクターからはずっとその後、悪役ばかりがきました。それが定着すると、ほかからもみんな悪役がきてしまって。仕事は確かに増えたんですけれど、今度は悪役一色になってしまって。まあいいや、仕事があればと思ってたんだけど、ほとんど二枚目役がなくなっちゃったんですよ。

岸川
俳優さんが悪役ばかりやっていると、ふだんも怖がられることがあるようですが、声だとあまりそういうことはないですよね。どうですか。

麦人
日常生活にそれほど影響はないかもしれないけど。もともと若いころヤクザっぽく見えたらしく、遠ざけられていましたが(笑)。

岸川
悪役の声をやっていて、割と悪役っぽいオファーが多かった。

麦人
ピカードをやってからは、今度は年齢的なものも含めて役の幅を広げるチャンスだということはありました。もう一度、自分の楽なトーンでしゃべれる表現でやっていこう、声でやっていこうということははっきり自覚しました。そこで声をつくらずに自分の一番楽な声でピカードをつくったんです。
ピカード役のパトリック・スチュワートさんという役者さんも、イギリスのシェイクスピアの名優だと聞いています。あの人もナチュラルな芝居も振幅のある芝居も両方できるうまい人ですから、自分が声をあてながら随分勉強させていただきました。それが今の自分の仕事にも通じる大きな財産になっています。これは自分が声優として一番ありがたかったことです。

岸川
矢島さんは逆に、ナポレオン・ソロとかカークとか、すごい主役の二枚目の、普通のヒーロー像が多いですね。そうでなければナレーションですね。

矢島
そうなんですよね。どうしても何か一つ世の中で認知されたものというのは、世の中がそういう形で登板の機会を与えてくれます。ですから、確かに悪役はやりたいですよね。僕がスポックをやってみたいというのは、別にスポックが悪役というわけではないですが、そういう欲望もあるんです。やはり、もう少し自分の芝居のバリエーションというものを求めたいという気持ちが常にありました。
僕の声は陰湿な二枚目といったらいいのかな。例えば、昔、僕はベン・ギャザラをやっていたことがあるんです。ベン・ギャザラの声って割と陰の形の二枚目と言ったらいいのかな。「事件と裁判」という、テレビシリーズでは初めての長いシリーズがあって、そのベン・ギャザラをやっていました。
そのとき、ある女性から、「矢島さんの声は淫靡な、あるいは陰湿な二枚目の声」と定義されたことがありました。ああ、そうなのかと。そういう淫靡な役というのも……。悪役というともっと格好よかったりするじゃないですか。そうではなくて、もっと陰湿な役もやってみたいなという欲望は、すごくあります。
ウィリアム・シャトナーも、どちらかというと二枚目の線よりも少しおかしい人のほうがおもしろい。あの人の芝居の性質が生きるんです。非常にエキセントリックな芝居をする方ですから、二枚目のカークをやるときは少し無理をしています。やはり「カークだ」ということで、彼は自分の中にあるカークのテンションをつくって、そこからカークに入ってきています。それが芝居として生かすことができるのは、少し神経を病んだような形の人。そういう人をやるとすごくいいです。「逃亡者」でもそういう役をやっていたことがあると思います。だから僕は、そういうウィリアム・シャトナーのアフレコをしてみたいですね。

岸川
玄田さんはシスコ役のエイヴリー・ブルックスの声をやっているのですが、意外とシスコの場合はカークみたいなアクションは少ないですよね。アクションがあることもあるんですが、割と立ってだれかに話しかけているというシーンが多いですね。

玄田
多いですね。

岸川
ほかのキャラクターは、例えば、加藤精三さんにしても、(クワーク役の)稲葉実さんにしても、すごく楽しそうにやっています。

玄田
クワークは楽しそうですよね。

岸川
玄田さんは、声を聞いていると、恐らく眉間にしわが入っていて、すごく張っている感じがすると思うんです。逆に肩の力が抜けたものは「がんばれ、ナイナーズ!」(DS9第154話)のときとか、たまにしかないじゃないですか。そうなると、ほかのキャラクターで、これをやったらおもしろいな、うらやましいなと思うものはありますか。

玄田
それは、クワークですよ。こんなメイクして、あそこまで遊べるっていうか。なおかつ主義主張はちゃんとあって。最初はすごく疎遠だったけれども、だんだんレギュラーをやっていると仲よくなってくるんです。結構親しみがあります。彼のほうもどんどんフェレンギとして変わってくる。そういう意味では、彼はすごく魅力のあるキャラクターです。

岸川
恐らくこの5人のメンバーでお集まりいただいたのは初めてだと思います。でも、仕事でそれぞれご一緒されたことはあると思うんです。僕は矢島さん=(ナポレオン・ソロ役のロバート・)ボーン、シャトナーの印象がすごく強いし、玄田さんは「DS9」までは(アニメ「クレヨンしんちゃん」の)アクション仮面やコンボイ、最近ではシュワルツェネッガーのイメージが強かったんです。イメージってできちゃいますから。だから、松岡さんは「夢子ちゃんと出ている人ね」「鬼太郎のほうの人ですよね」というイメージしかありませんでした。
でも、それぞれ皆さん、いろいろな役をやっているじゃないですか。その中で自分が演じた「スタートレック」の役で、どういうものを得たり、わかったりしましたか。また、番組をやっていると愛着がわいてくると思います。そこで、「おれの『スタートレック』はここがおもしろいのよ」というお話があればお1人ずつお聞かせ願いたいと思います。

矢島
なんだろう。ウィリアム・シャトナーという方は舞台出身の方で、非常に演技のつくり方が構築的です。つまり、非常に頭脳的に計算し抜いて一つ一つの芝居を組み立ててくる方です。ナチュラルなところからスッと入ってくるのではなく、カークはこうかくあるべしというイメージがシャトナーの中にしっかりあって、そして「ここはこうやろう」「あそこはこうやろう」という一つのラインがあり、そこをどう肉体化するか。そういう形でシャトナーはご自分の演技を組み立てていると思います。
それを我々声優の立場としては、シャトナーの芝居のラインを、分析的に言うと読み取って、それにのっていくわけです。もっとも我々は本能的にそれをやるわけです。いちいち考えていくわけではないけれども、それに反応していかなければならない。
普通のナチュラルな芝居のテンポだったら、ちょっと考えて、ちょっと思い入れがあってフッと自然に次のセリフが出てくるといったナチュラルなラインがあるわけです。しかし、シャトナーの場合は、役をシャープにつくりたいといったことがある。だから、シュッと思い入れをしておいて、自分の中でパッと結論がひらめいたときに、ワッと爆発的にテンションの高いセリフで出てくる。そういう計算上の彼の情緒の動き、心理的なリズムの動きをとらえるのは、非常に苦労しているところです。
それはシャトナーと35年の間つき合ってきて、いまだにきちんとそこのところがうまくつかめない。いつもシャトナーは僕にとっては対象物というか、雲の上にいる人であって、僕がどうしてもこっちへ取り込めないんです。取り込めたときにすごくナチュラルで自然な芝居ができるんだと思いますが、どうしても僕はシャトナーへ向かっていく。シャトナーのほうへ僕が何とかして向かっていくという形で、日本語版をつくっているつもりです。
そんなことを僕は個人的に感じています。見てくださる方がその辺をどう見ていただけるかな。そこまで見ていただけたらうれしいなと思います。うまくいっていないこともたくさんあるんです。なんて矢島は下手なんだ、と。シャトナーがやっていることと僕との間の落差まで見てくれたら、逆にうれしいですね。

岸川
今のDVDは原語版も両方聞けますから。

矢島
だから、そういう意味で、また録り直したい(笑)。

岸川
ファンとしても新しいものは見たいですから。

矢島
そんな気がしているんですけれど。どなたもそういうことですよね、日本版のアフレコをするということの苦労は。たぶん。

岸川
「宇宙大作戦」をやってみて、こういうところはおもしろかったと思うところはありますか。

矢島
いろいろあるんですけれども。何と言っても、これは岸川さんのほうがよくご存じのことだけれども、ロッデンベリーという人が偉いなと思うことです。やはり、SFの世界ならばテーマとして社会的なタブーにも触れられるというところに、テレビ人として、あるいはドラマをつくる人として目をつけた。その発想のすばらしさですね。
やはり世の中では、触れられない、いろいろな差別の問題や人種的な問題や宗教の問題、政治の問題などがあります。それを暗喩的に寓意的に、SFならば扱える。そこでテーマがすごく広がってくるわけです。そこへ目をつけたロッデンベリーという人は、僕は偉い人だなと常に思います。
「スタートレック」の魅力は、ご自分の問題意識を「スタートレック」を鏡として考えることができるところにあると思います。だから、いろいろな見方があると思うんです。見る人の問題意識の持ち方によって。そこがとても幅が広いということでしょうか。それがやはり「スタートレック」と巡りあったことの、僕の一番の喜びです。

麦人
僕なんかも全く同感です。自分は「新スタートレック」をやったんですが、SFものをやっているという意識ではあまりやっていないんです。

矢島
そうですね。

麦人
人間ドラマをやってるっていう意識が非常に強くて。だから、自分の中ではっきり全部覚えているわけじゃないけれど、好きなエピソードというと、そういうものが多くなるんです。特にそういう傾向の強かった色合いのものが。「ギャラクシー・ロマンス」(TNG第144話)や「惑星カターン」(TNG第124話「超時空惑星カターン」)。ちょうどそれが、「ピカード・ボックス」(DVD「新スター・トレック TV傑作選 ピカード艦長ボックス 」)の中に見事に入っているんです。

岸川
ベストセレクションですね。

麦人
そういうのを見ると、SFもの以上に人間ドラマ、人間臭いドラマになっている。その魅力は、矢島さんがおっしゃったように、僕もやっていて感じました。宇宙という世界を通して、やはり我々が日常現実で遭遇しているいろいろな問題を描いている、主張しているのだと思います。

岸川
現実の鏡であると。

麦人
まさにそれは思いますね。

岸川
玄田さんはいかがですか。

玄田
世紀を超えても、ドラマというのは人間がかかわっている以上、本質的なものは全く変わらないと思いました。「スタートレック」というのは、男の夢やロマン、冒険、愛。そういったものすべてを、果てしない宇宙で描けるというのはすばらしいことです。でも、それを誤解しちゃいけないのは、その本質は変わらないんだなということです。
異星人とかいろいろシチュエーションは変わってきますが、そこで罵りあったり、戦ったり、愛し合ったりというドラマが違う視点から見えてくる。だから、「スタートレック」は永遠じゃないかなと思います。

岸川
基本フォーマットがしっかりしているので、時代を経ても古びないということですね。その辺、シェイクスピア劇や昔のドラマもそうですね。テーマ的な本質は今に通じるものがあるから。松岡さんはいかがですか。

松岡
本当に皆さんのおっしゃることに全く同感で、何も言うことないくらいです。つけ加えれば、SFというとどうしても男の人のほうが興味がわくのですが、艦長が女性になったということで「スタートレック」に女性ファンも増えてくれたのではないかと思います。

岸川
特に「ヴォイジャー」は、艦長がジェインウェイで、後半には女性のセブンが目立ちます。

松岡
活躍しますよね。

岸川
そういう意味ではすごく女性が目立っている番組ですよね。

松岡
そうですね。うれしいことです(笑)。

岸川
そして、現在「エンタープライズ」が放映中の谷口さんはいかがでしょうか。

谷口
先ほど、会話が多いとおっしゃいました。確かにそうです。皆さん、ご存じないかもしれませんけれど、台本の厚さを考えると、この会話の分量って普通は考えられないんです。台本って意外と薄いんです。そうすると、この台本から考えると、SEとかMEといったいわゆる効果音などが入ってくるアクションものだと、しゃべる分量はすごく少ない。しかし、「スタートレック」ってものすごくしゃべるんです。会話がほとんどですから。まさしく相手の会話をよく聞いて、それに反応していく。本当にそのことに全神経を注いで吹き替えをやっています。
玄田さんも結構悪役をやっていますし、麦人さんは、当たり前ですが(笑)。私は全くの二枚目であるアーチャーをやらせていただいたのですが、横のマイクでクリンゴンとか、異星人をやっている、いわゆる悪役をよくやる方がやっているのを見ていると、「いやあ、あんなに悪役の声を出せて幸せだなあ」って思います。私も随分悪役をやらせていただいたので、本当に存分に皆さん、悪役をやられているので、「ああ、いいですねえ」と。久しぶりに逆に悪役の声を見直しているところです。
ジョナサン・アーチャーがいつまで続くかわかりませんけれども、先行きはクリンゴンもやらせていただきたいなと思っているんです。
確かに、愛や人間をテーマに、この「スタートレック」は成り立っています。そういうことでは、会話をしながら「愛」というものを本当に感じます。クルーとの会話もそうですし、異星人との会話もそうです。それは学ぶところがたくさんあります。

岸川
確かに「スタートレック」を見ていて、あり得ないけれど、人間の理想の社会・世界の一つなんだろうなという感じはします。お互いに相互理解する。完全に分かりあえなくてもお互いの立場を尊重する。大人だと思うのは、内政不干渉みたいな部分だと思います。
今日は長々、本当にありがとうございました。
一同 ありがとうございました。



矢島
というわけで、「スタートレック」を見るなら、スーパーチャンネルでどうぞ。ではみなさん……

一同
よろしくお願いします!(終了)


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